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スポーツ選手の命運を分ける脊椎手術--可動域温存型手術で復帰は可能か?
スポーツ選手の命運を分ける脊椎手術--可動域温存型手術で復帰は可能か?
【エリートアスリートの脊椎手術--競技復帰への道とは?】
スポーツ選手にとって、ケガはキャリアを左右する大きな問題です。特に、脊椎(せきつい)に関連する問題は深刻で、適切な治療が求められます。近年、**可動域温存型脊椎手術(MPSS:Motion Preservation Spine Surgery)**が注目されています。この手術では、従来の脊椎固定術(骨を固定する手術)とは異なり、脊椎の動きをできるだけ残すことを目的としています。
では、エリートアスリートがこの手術を受けた場合、実際に競技復帰は可能なのでしょうか?本記事では、2025年に発表された最新の**システマティックレビュー(系統的レビュー)**の内容をもとに、アスリートの競技復帰率や術後のパフォーマンスについて詳しく解説します。
【運動温存型脊椎手術(MPSS)の特徴とは?】
脊椎の疾患には、椎間板ヘルニアや脊椎狭窄症などがあり、重症の場合には手術が必要になります。不安定性やアライメント異常などによって、損傷した部分の骨を固定する「脊椎固定術(Spinal Arthrodesis)」を要することがありました。しかし、固定術には以下のようなデメリットがあります。
- 可動域が制限される → スポーツ選手にとって致命的
- 隣接する関節に負担がかかる → 将来的な二次的障害のリスク
- 復帰までの時間が長い → 競技寿命の短縮につながる可能性
これに対し、**可動域温存型手術(MPSS)**は、脊椎の動きをできるだけ維持する方法として開発されました。主な手術方法には、以下のようなものがあります。
- 人工椎間板置換術(Total Disc Arthroplasty, TDR)
→ ダメージを受けた椎間板を人工のものに置き換え、可動域を保つ手術。 - 腰椎椎間板切除術(Lumbar Discectomy, LD)
→ 顕微鏡や内視鏡などを用いて低侵襲に神経を圧迫するヘルニア部分のみを除去し、脊椎の動きを維持する手術。 - 後方椎間孔切除術(Posterior Cervical Foraminotomy, PF)
→ 顕微鏡や内視鏡を用いて頚椎(けいつい)の狭窄(きょうさく)部分を広げて、神経の圧迫を解消する手術。
これらの手術方法により、アスリートがスムーズに復帰できる可能性が高まると期待されています。
【エリートアスリートの競技復帰率--75%以上の選手が復帰!】
今回のレビューでは、NBA(バスケットボール)、MLB(野球)、NFL(アメリカンフットボール)、NHL(アイスホッケー)、オリンピック競技のアスリート612名がMPSSを受けた後のデータが解析されました。
その結果、以下のような競技復帰率が確認されました。
- 頚椎手術のRTP(競技復帰)率:83.3%〜100%
- 腰椎手術のRTP率:75%〜100%
- 復帰までの平均期間:9.7週間〜8.7ヶ月
驚くべきことに、ほとんどのアスリートが手術後も競技に復帰しており、しかも高いパフォーマンスを維持していました。ただし、手術方法によってはリスクもあります。例えば、頚椎の「後方椎間孔切除術(PF)」を受けた選手のうち、46.2%が再手術を必要としたことが報告されています。
そのため、手術を選択する際は、術後のパフォーマンスや再手術のリスクをしっかりと考慮することが重要です。
【手術後のパフォーマンス--スポーツによって異なる影響】
「手術後も元のパフォーマンスを維持できるのか?」これはアスリートにとって最大の関心事です。本研究では、スポーツの種類によって術後の影響が異なることが分かりました。
- バスケットボール選手(NBA)
→ 初年度はややパフォーマンスが低下するが、2年目以降に回復する傾向。 - 野球選手(MLB)
→ ピッチャーは防御率(ERA)が悪化する傾向があるが、打者は大きな影響を受けない。 - アメリカンフットボール選手(NFL)
→ ポジションによるが、多くの選手が術前と同等のパフォーマンスを維持。 - アイスホッケー選手(NHL)
→ 出場試合数は減少するものの、得点力などの指標には大きな変化なし。
このように、手術後の影響は競技特性によって異なります。手術を決断する際は、自分の競技の特性やポジションを考慮することが重要です。
まとめ--アスリートの未来を支えるMPSS
本記事では、最新の研究結果をもとに、可動域温存型脊椎手術(MPSS)がエリートアスリートにとって有効な選択肢であることを解説しました。
✅ 75%以上の選手が競技復帰に成功
✅ 手術方法によって再手術のリスクが異なる
✅ 競技によってパフォーマンスへの影響が変わる
ただし、まだ長期的な影響については研究が不足しているため、今後さらなるデータの蓄積が求められます。アスリートやスポーツ医療に関わる方々にとって、MPSSの選択肢を理解することは、今後ますます重要になっていくでしょう。
引用文献
- Reyes JL, et al. "Return-to-Play Outcomes in Elite Athletes After Cervical and Lumbar Motion Preservation Spine Surgery: A Systematic Review." Spine, 2025;50:122-128.
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